2018年11月5日月曜日

配球と『野村ノート』


配球と『野村ノート』


 ある種日本の野球神話として成り立っている「困ったときのアウトロー」信仰。この信仰を作り上げたのは、かくいう野村克也氏である。今も評論家として活躍されており、本もたくさん出版されている。本屋の野球コーナーに行って、野村克也氏の本がない本屋はないだろう。日本球界における野村克也氏の影響力は凄まじいものである。ダウンスイング信仰を結果的に生み出すことになった王貞治氏(実際はまったくダウンではない)や川上哲治氏も凄まじいが、捕手理論、配球論に関する野村克也氏の影響力は、とどまることを知らない。その一端を担っているのは、『野村ノート』である。



はっきり言えば、私はこの『野村ノート』によって育てられたといっても過言ではない。選手にも度々紹介し、中学生用に簡単にまとめたテキストを配布したこともある。そして今でも捕手には読むことを奨励している。職人肌が強いプロ野球選手に「社員教育」を行い、弱者の兵法によって野村氏が率いたチームは、たびたび球界にトップに立った。まぎれもなく『野村ノート』は名著であると言えるし、『野村ノート』が販売される以前から「ID野球」としてデータを活用した野球は、現代野球の萌芽とも言ってよいだろう。しかし、時代の変化はときに残酷である。


●「困ったときのアウトロー」が通用しない
近年のMLBでは、アウトローでさえもHRにする場面をよくみる。「骨格の違い」と言ってしまえばそうだろうし、「パワーがあるから」という言葉で解決もできる。しかし実際にMLBで起こることは、NPBでも起こりうる未来である。「ダウンスイング信仰」と「アウトロー信仰」はそれぞれ仲がよいので、手を組んでいるうちには問題がない。しかし徐々に日本球界も変化が起こっている。HRが飛び交い、空中戦が多かった日本シリーズ。広島カープ鈴木誠也選手のライトへのHRは、新しい時代の到来を感じた。


●変化球の種類と高速化
NPBにおいても、リリーフ投手は150キロを超えるか、なにか特筆すべき特徴がないと活躍しにくい印象を受ける。事実、ソフトバンクのリリーフ陣は150キロを超えている投手ばかりだった。実際データでは、日本人打者は150キロ以上の球速に弱いことがわかっている。活躍する投手陣は、やはりストレートが速い。変化球の種類も、いまでは区分することが意味がないほど多様化している。フォークほど落ちるツーシームや、大きく曲がるスライダーとパワーカーブの違い。厳密に区分する意味はあると思うが、野球を知らない人が見たらなんの事かわからないだろう。




●『野村ノート』がベースになっている時代
今では「内外の対になる変化球」「インコースの使い方」など、『野村ノート』に書かれていることは広く普及している。ある意味スタンダードになった、といっても大きく間違いではない。カテゴリの上位層同士の戦いであると、その駆け引きが伺える。カウント3-2からフォークで空振りをとる大学生もよく見かける。「野球のベーシックな考え方」として野球の思考法としての『野村ノート』の意義は大きい。しかし残念なことに、以前は「知識がある」ことが優位に働いたが、今では知識があることの価値が下がっているフシがある。『野村ノート』を読んでも、ベースとなる学びにはなるが、勝ちに貢献できるかといえば難しい問題である。


ピッチャーの進化があり、バッターが進化し、知識が共有化されていっている。その先に、どんな「配球」があるのか?まだまだ思考の余地が残されている。

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