前回からの続き、今回は「スペース」についてです。
球技スポーツですと「空間」をどう活用していくか、という話になります。僕はバスケットボールも少しばかりやっていたのですが、コーチから「いかにスペースをつくるか」や、「人がいないところに走る」といったところが大切だと教わりました。
他に、小学生のサッカーでも低学年チームなどは、「ボールに選手が群がる」という現象が発生すると聞いたことがあります。小学生も高学年や強いチームになるほど、ボールには群がらず、グラウンド上を幅広く活用できるようになるそうです。
さて、野球以外の競技ではどのように空間を活用しているのでしょうか。
サッカーもバスケットも「マンツーマン」や「ゾーン」という作戦があります。
「マンツーマンディフェンス」は相手一人に味方一人がついていき、「ゾーンディフェンス」は決められたエリアを仲間と連携しながら守っていく手法です。野球は「ゾーンディフェンス」と考えられます。
ゾーンディフェンスのメリットは、
”ゾーンディフェンスは常にボール周辺に数的優位ができる”
ということだそうです。
以下の「ジュニアサッカーを応援しよう」のリンクより
https://jr-soccer.jp/2018/09/02/post100330/
また、ゾーンディフェンスのポイントとして、
”他の選手たちは、移動したボールの位置、そして移動した味方の位置に連動するように、スムーズに全体がスライドしていけばいいのです。私はこれを「水族館のイワシの群れ」のような動きだと例えるのですが、まさにあの集団的な動きをイメージしてください。まずはボール周辺に守備者全員で常に数的優位を作ること。これが原則となります。”(上記リンクより)
とあります。「水族館のイワシの群れ」と言われるとイメージはつきやすいですね。
「組織化して連動して動く」が基本ですから、野手は声を掛け合いながら動いていく必要があります。
競技性が異なるにせよ、ポジショニングによって「打球が予測されるところに守備者全員で数的優位をつくる」という論理は成り立つと思います。古くは「王シフト」、近年の守備シフトもこれに相当すると考えます。そんなところから、「スペース」は球技スポーツを考えるうえで抑えるべき要素だと思います。
前置きが長くなりましたが、1枚目のスライド。

前置きでは「①」の部分だけに触れた形になりました。物理空間のスペースをどう埋めていくかを考えていく、これがポジショニングです。
触れなかった「②」、これは脳内空間や認知能力を指しています。「予測能力」だと考えています。某強豪校出身の外野手に話を伺ったときに、「フライはパワプロの落下地点カーソルが見える」と言っていました。興味深いのは、これを後天的に手に入れたということ。中学校で練習していく過程で、予測できるようになったと本人は言っていました。
打撃に関しても、目で認知をしてその後は予測で体は動いています。「結局ボールは見ていない」という話は有名ですね。投手と打者、約0.4秒の世界で打者は約0.2秒で判断していると研究結果として示されていますし、「ピッチトンネル」もこの領域内の話です。
物理的空間の活用法と、予測能力を高める重要性が野球にはありそうです。
2枚目のスライドです。
スペースを分解して分類していくと、スライドのようになりました。
グラウンド上では、ポジショニングが進塁と関係します。空間が大きく空いているところに飛べば、多くの塁に進むことができます。
したがって、「自分はどこに位置するか」と「相手はどこに位置しているか」は重要項目です。他チームのマニュアルなどを見たり、勉強していくと、細かくポジショニングのルールを決定しているチームがあります。私は重要だと思いますが、一切ポジショニングの指導しないチームもありました。ポジショニングの議論があまり出てこないのは、大変見えにくい(一歩二歩であったり)上に評価しくいからだと思います。知識がない選手らにとっては、きちんとティーチングする重要性が見出せます。
余談ですが、プロ野球選手が、「ファインプレイをする」のも身体能力としてプロであるのと同時に、ポジショニングやスタートを失敗している可能性があります。ミスを補うだけの能力がある、とも考えることができます。
一方、いつも難なく捕球している選手は、よくみると細かくポジショニングを変えています。元ジャイアンツの仁志選手がポジショニング能力に長けていた話も、大変有名です。
こういうのは好みがあるので、「簡単なプレイをかっこよく魅せるのもプロだ」という人もいれば「難しいのを簡単に捕るのがプロだ」という人もいます。僕はどっちもプロだと思うので、どっちも好きです。
話を戻します。今回のまとめ。
スライドで分解分類したので全部を説明はしませんが、共通して言えることは、
「個人の能力+データ・観察・セオリーで補う」のが大事だということです
能力値(予測能力など)を高めていく、足を速くする、肩を強くする、こういった個人の能力とスペースは結び付いています。足が速ければポジショニング関係ないです、みたいな極論ですね。ただ、全員が50m6.2秒で走れたり、遠投100m投げられるわけではないので、それを補うのがデータであり、観察であり、セオリーを知ることだと思います。
野村克也氏は「打率3割を打ちたいけど、精いっぱいやって2割5分。あとの5分をどうやって埋めるのか。これを突き詰めていくことが「考える」ことだ」と言いました。まずは才能を磨き、個人の能力を伸ばすこと。そのうえで、足りない部分を補うこと。この話に私は大いに納得しました。
打って投げて走って、個人の能力が大いに評価される時代になりました。かつ、私も個人の能力を高めることに大賛成です。高校野球では「個」が軽視されることも少なくないです。ただ、野球はチームスポーツで、組織性があるからこそ面白い。私はそうも思っています。スペースの活用も駆け引きのうち。記事を書くにつれ、「もっと勉強する必要がある」と痛感しました。今日はここまで。
参考図書
アメリカ野球指導者協会『野球 勝つための戦術・戦略』大修館書店 2011年
平野祐一『科学する野球 ピッチング&フィールディング』ベースボールマガジン社 2016年
平野祐一『科学する野球 バッティング&ベースランニング』ベースボールマガジン社 2016年
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