監督とコーチ ①
日本では指揮官のことを「監督」と呼び、アメリカでは「マネージャー」と呼ぶそうです。マネージャーとは「経営する人・管理する人」と考えられます。呼び名や文化の違いはさておき、実際に監督に求められることはどんなことが求められるのでしょうか?
経営に関する名著、『マネジメント』(ドラッガー)には、こんな一節があります。
「複数の人間が協力して、意志を疎通させつつ多様な課題を同時に遂行する必要が出てきたとき、組織はマネジメントを必要とする」
『もしドラ』を読んでいないので恐縮ですが、野球チームにおいてはマネジメントはどのように活用されるのでしょう。「チームとして勝つ」のは共通の目標ですが、そこに至るまでの課題は多様です。とくに野球は求められるスキルが多く、人もたくさんグラウンドにおり、ある意味いろんな「事業」が同時進行しています。それぞれの人間が野球に取り組み、チームとして勝つこと、そのために監督はどんなことをやるのでしょうか。
●マネージャーをしてマネージャーたらしめるのは、成果への貢献という責務(『マネジメント』より)
「マネージャーの役割は、投入した資源より大きなものを生み出すこと」
「直ちに必要とされているものと、遠い将来必要とされるものを調和させていくこと」
これはマネージャーの役割として挙げられているものです。与えられた資源よりもより多くのものを生み出す、つまり「時間対効果」や「費用対効果」がより大きくなればよい、ということです。本の中ではオーケストラの指揮者が例として挙げられています。多様な楽器を調和させ、ひとつの壮大な世界観を創り出すのです。費やしたリソースから何倍も何十倍もの価値を生み出すこと、それがマネージャーのひとつの役割のようです。
野球は「試合で勝つ」という目標があります。それと同時に、学生野球であれば「人間形成」という語句がついてまわることも多いです。監督としては今週末の試合に向けて仕上げていく必要がありますが、同時に一番大きな大会に向けてチームをつくっていくことも大切です。その両方の視点なくして、チーム作りはできません。
●「木を見て森を見ず」から「一帯を見て森を見て木を見る」
とかく『マネジメント』を引用してみました。自分が監督になったら、必ず読み返すと思います。組織を運営し、動かしていくとはどういうことか。簡単な引用はしましたが、心に残る言葉ばかりですし、きっと組織運営に役立つはずです。
監督とは成果を出すための存在です。成果を出すための責任があります。「部分の和」「ポジションごとの力をつける」のは、コーチの役割です。各部分の持っている力を最大限に引き出す能力、これが監督の力です。1年間のチームの成長をデザインし、形にしていくことです。以前所属していたチームの監督に、こんなことを常々言われていました。
「いいか、監督は最後の味付けだ。コーチが下準備して、ほとんど完成させる。お客様に出すときに初めて、かるく塩をを振るのが俺だから。俺は最後の調整役なんだよ」
監督としての責務のために、最後の微調整を加えるのが監督です。その準備をするのが、コーチなどのスタッフです。コーチ陣にはその食材を準備する責務があります。監督は大きな介入はせず、全体の調整を図ることがもっとも重要なスキルなのです。部分ばかり見て全体を見逃す「木を見て森を見ず」では、チームの行方を見失います。「一帯を見て森を見て木を見る」、つまり森自体の周辺から見て(地域や所属周辺一帯もしくは世界!)、自分たちの森を見て、細部にまで眼を届かせる。そして余分なところは削除し、よいところは成長させ、チームを完成させるのです。
●宗教、カリスマ、ディズ○ーランドたれ
全体を構成していくのが監督の役割ですが、優秀な組織はそこに哲学を感じます。そのチーム全体を抱合する世界観を感じるのです。私が広島の武田高校を訪れた際に思ったのは、一番はここでした。端から端まで、すべてが武田高校の世界の一部なのです。ゴールのために、すべてがシステマティック且つ情熱的に動いている状態なのです。ディズ○ーランドの園内掃除の方は、「星屑を拾っています!」といいますよね、雨が上がると雨水で絵を書いてくれることもあります。モノレールから降りて駅から出た瞬間から、そこは夢の国なのです。
宗教には、そこに世界観があります。教典があり、聖地があり、儀式があります。創造された世界観はフィクションであったとしても、確かな力強さがあります。構成された圧倒的な数のストーリーは、人を惹きつけるのです。2000年以上も生きつづけるのは、このストーリーの壮大さ、構成している世界観の強さにほかならないのです。実は、私が映画や小説を読む理由はここにあって、優れた映画や小説は世界観が壮大で構成が素晴らしいからです。ここが自分が監督になったとき、大いに役立つのではないか、と思っています。
世界観を構成するためには、私達がもっと世界を知ることが1つです。広い世界の様々な事象を、積極的に受け入れていく必要があります。大きなものを構成する難しさ、構成方法を知ることです。そしてもう一つ、細部にこだわることです。端から端まで、世界を作り上げることです。この監督して求められる細部の視点、これを養成するのはコーチをしている期間がそれを養成するのだと考えています。
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